活動レポート
タイ国境(ミャンマー)難民キャンプの図書館が作り出す“心の拠り所” シャンティ国際ボランティア会の菊池礼乃さんに聞きました | オンライン学習会「出口の見えない難民問題の今」詳細レポート(3)
2021.9.2
パルシステム東京は2021年7月23日(金・祝)、「出口の見えない難民問題の今」と題して、難民支援に取り組むNGO3団体を講師に、学生らとのトークセッションも交えたオンライン学習会を開催しました(参加者167名)。当日の講演や質疑応答の様子の一部を4回に分けて詳細をレポートします。
ミャンマー(タイ国境)難民キャンプでの難民支援
講師:菊池 礼乃 氏
シャンティ国際ボランティア会 事業サポート課 課長。
大学時代から教育分野、人権分野での国際協力に関心を持ち、様々なNGOでのボランティア活動を経験。2009年にタイ・ミャンマー(ビルマ)国境を訪問したことをきっかけに、難民問題に関心を持ち始める。2011年3月に入職し、ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所 プロジェクトマネージャーとして難民支援に携わる。帰国後、2018年10月より事業サポート課に配属、2019年7月より同課課長に就任し現職。
「タイ国境難民キャンプって?」| シャンティ国際ボランティア会
ミャンマーに住んでいたカレン族などの少数民族が国境を越えて逃れタイ国境にある難民キャンプでの暮らしを余儀なくされています。
「シャンティ国際ボランティア会」は1981年に日本で設立された「本を通じて生きる力をともに育む」国際協力NGO。アジアの6カ国8地域で子どもたちに対し、パルシステム東京平和カンパで応援している「図書館事業」などの教育・文化支援事業を行っています。
2021年2月に軍事クーデターが起こったミャンマー。1948年にイギリスから独立して以降、少数民族と中央政府や国軍の対立はじつに70年以上にわたって続いています。戦闘が激しくなった1970年代後半から、戦闘や人権侵害を逃れて少数民族の人々がタイ側への流出し、公式には1984年に難民キャンプが設立されました。
現在はタイ側に9ヵ所の難民キャンプがあり、約9万1千人が国際支援に頼って生活をしている状況です。カレン民族が全体の8割を占め、カレン系難民キャンプ(7ヵ所)では教育施設として幼稚園から小中高校・(日本の大学にあたる)高等教育機関もありますが、卒業しても就労が難しく、卒業資格がタイやミャンマーでは正式に認められないなどの課題があると菊池さんは指摘します。
難民の恒久的な解決方法としては右図のような3つの選択肢が考えられています。しかし「タイへの統合」や「第三国定住」については現在難しい状況といえます。
そうした中、ミャンマーでは2011年3月に軍政から民政へと移行し、少数民族との停戦合意が締結され、中央政府と少数民族との間で和平会議が開催されるなどの状況から、3つ目の選択肢である「難民帰還」が進められてきました。しかし、両国の合意のもと1,000人ほど帰還を進めていた最中に、今回の軍事クーデターが起こり、再び先行きが不透明な状況となってしまったのです。
なお、帰還後の生活も不透明なため、帰還を希望する難民が少ない中、国際支援も減少し、NGOの事業撤退や社会サービスの削減から、難民キャンプに留まることも難しいといいます。若い世代でも先行きが見えない辛さから、麻薬やアルコール依存者、自殺者の著しい増加など非常に厳しい状況となっています。
このような状況下で、シャンティ国際ボランティア会では2000年から教育・文化支援活動を展開してきました。現在はカレン系難民キャンプで15館のコミュニティ図書館を運営しています。
図書館利用者や活動参加者からは「図書館は貴重な情報収集の場、学びの場であるとともに、心の拠り所である」といわれることが多いそうです。本を読むことで心が自由になる、皆で集まって話すことでホッとする、母語で書かれた本を通じて自分のルーツやアイデンティティを知る、など図書館事業ならではの成果を上げてきました。
講演の最期に、最新の情勢についても菊池さんから次のように解説していただきました。
・3~4月のカレン州北部での空爆によって2~3万人が国内避難民と化し、タイ側に約3,000人が退避したがタイ軍が追い返した。 ・NLD関係者や市民不服従運動(CDM)デモ参加者がミャンマー都市部からタイ国境に向かって避難。タイ政府、UNHCR、タイ国内NGOが新避難民受け入れの準備を進めているものの、現状では公式には受け入れていない。 ・UNHCRの報告によるとミャンマー南東部に約15万人の国内避難民が発生し、多くの方がジャングルの中で生活し、あらゆる物資が不足している。 |
こういった状況が長期化することによって、避難民の方たちの生命・生活が脅かされている中、改めて国際NGOとして何ができるかを問われていると菊池さんは危機感を募らせます。