活動レポート
核兵器をなくすことはできるの?わたしたちにできること
2019.10.1
9月29日(日)パルシステム東京は「平和カフェへようこそ ~核兵器をなくすことはできるの?わたしたちにできること~」をパルシステム東京新宿本部にて開催しました。
パルシステムの長崎カステラとお茶を楽しみながら聞く学習会。組合員・役職員28名が参加し、長崎大学核兵器廃絶研究センター准教授の中村桂子さんの講演から、核兵器を廃絶するための課題を明確にとらえ「核なき世界」のために一人ひとりができることを考えました。
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平和を願うだけでは、世界はなかなか変わらない
「今私がいる長崎市は、被爆地として平和を願う気持ちが強いのですが、残念ながら平和を祈るだけではなかなか世界は変わりません。
祈りの先にするべきことは、核兵器廃絶を強く願う人や『核のない世界』をめざして活動する人たちに、どうやって進んでいけばいいのかという道筋をはっきり示すこと。『こういう活動を置き石にして進めば核なき世界になっていくんだ』と確信を持てるようにしてあげることです」
という言葉からはじまった中村さんの講演。
核兵器をめぐる世界の現状、核兵器廃絶に向かって世界の人々はどのようなことをしているのか、私たちは何をすればいいのか、をお話しいただきました。
世界の核兵器の現状 ~数は減少、でもそれだけでいいのか~
今世界にある核弾頭は13,880発。そのうち6,500発をロシア、6,185発をアメリカが所有し、2国で全体の90パーセントを占めています。冷戦時代は7万発あったことを考えるとずいぶんと少なくなったという印象を持ちますが、大切なことは核の数ではなく、核保有国の考え方が変わること。『核兵器はいらない』『核兵器がなくても大丈夫』と各国のトップが思うことです。
アメリカの今後30年間に見込まれる「核近代化」支出は約130兆円。トランプ政権はより使いやすい新型の小型核兵器の開発、配備に進む意向を表明し、ロシアもそれに対抗して核開発を進めています。
アメリカとロシアで締結した新戦略兵器削減条約(新START条約)が2021年に失効することもあり、何年か先にはアメリカとロシアの核兵器が野放し状態になってしまうかもしれない。世界は今、非常に危険なところに置かれています。
世界の核兵器廃絶に向けての動き~NPT(核不拡散条約)について~
世界の現状は非常に危険な状態ですが、それでも何とかして核兵器の使用を食い止めようと活動している人たちがいます。
ここでNPT(核不拡散条約)についてお話ししたいと思います。NPTは世界191か国が締約、そのうち5か国が「核兵器国」186か国が「非核兵器国」です。
NPTは「核不拡散」「核軍縮」「原子力の平和利用」の3本柱からなる条約です。 2番目の「核軍縮」についてですが、これは英語で「disarmament」。本当は「軍備縮少」というよりは「軍備撤廃」。ゼロにするという意味があります。
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NPT(核不拡散条約)
5つの核保有国が
・「非核兵器国に核兵器を渡さないことを約束」(核不拡散)
・「保有している核兵器の完全な廃棄に向けて、誠実に努力することを約束」
・「核兵器ゼロは義務」の3項目を守るならば、「非核兵器国」は
・「核兵器を持たない、作らない、もらわないことを約束」
・「作っていないことを証明するための国際的な査察の受け入れ」
・「原子力の平和利用で支援を受けることができる」
という取引の条約なのです。
しかし、現状はどうでしょうか。先ほどお話ししたように核兵器国は核を持ち続け、非核兵器国はおとなしく核兵器を持たず、査察も受け入れているという、非常に不公平な状態となっています。
このままではいけない。私たちにできることはなにか
今核保有国を縛る条約はNPTしかありません。NPTはもちろん大切ですが、それだけでは核廃絶までの道筋がはっきり見えてこない…核保有国を縛り切れないのです。
そこで新しいうねりを生み出すため、オーストリア、南アフリカ、メキシコ、アイルランド、ブラジルがリーダー国となり、禁止条約※を作りました。 ※この禁止条約は、50か国の批准後、90日で発効。(2019年11月8日現在、33ヵ国)
核兵器廃絶に有効なのは『人道アプローチ』です。『核兵器を持つことは恥』『核兵器では人の安全は守れない』というイメージを人々の中に作っていくこと。
生物兵器や対人地雷、化学兵器など、以前使用していた兵器について禁止条約ができていることを考えれば、核兵器が使用禁止になるのも時間の問題ではないかと思います。
現在アメリカは対人地雷禁止条約に参加していませんが、対人地雷を国内で製造していません。これは、『そんな残酷で野蛮な兵器でお金儲けをするなんて!』というイメージを持つ世論がそうさせているのです。
核保有国が変わらなくても、世界の常識が先に変わる。その力が禁止条約にあります。
禁止条約を後押しする大きなうねりが世界を変えていく
「核保有国が参加しない条約など無意味だ」という意見もあります。しかし、この禁止条約を後押しするような動きが世界で出てきています。代表的なのが「核の傘の下の国」といわれる日本の中の「ICAN」のノーベル平和賞受賞です。これは大きな動きになりました。アメリカでもカリフォルニア州の議会が核兵器禁止条約に賛成することを決議、ワシントンDC、フランスのパリでも決議されました。なかなかニュースにはならないのですが、核保有国の中でも地殻変動のように水面下で変わってきています。
民間企業でも核兵器製造企業への投融資禁止をはっきりとホームページに公表している金融機関がたくさん出てきました。
金融機関に集まるお金の多くは個人のものです。「自分の預けているお金が、核兵器製造企業に流れるのは許せない!全部引き出します」と多くの人がプレッシャーをかけることで金融機関を変えていったのです。
日本ではりそなホールディングス、九州フィナンシャルグループなどが公表しています。 こういった企業に対して、私たちも取り組みがいいと思えばその意思を表明したり、応援をするということも世界を変えるきっかけになります。
今、核を持たない国々は「核はなくならない」「核は場合によっては使ってもよい」「根拠はないけど安心なんじゃないか』という自分たちの考えを変えて、「核兵器は悪」「核戦争に勝者はいない」というイメージを持ち、じわじわと核保有国が居心地の悪い思いをするような世界を作っていこうとしているのです。そのうねりは核保有国や核の傘の下の国の中の人々の考え方も変えていっています。
核兵器廃絶への動きが当たり前の社会になっていくために 若い世代のために私たちができること
長崎市内の大学生でも核について詳しく知る機会がないため、「核は危険なのは知っているけれど、廃絶するのはなんとなく無理だと思う」「どうすればいいのかわからない」という消極的な気持ちを持っている学生が多数います。
その中で核廃絶活動をしている学生はとても少数派で、周りの理解も得られず、しんどい思いをしています。就職活動で不利だと直接言われるようなことあり、大変不安に思っています。ここは周りの大人が変わらなければならないところです。
学生は具体的に行動するべきことを示し、世界は変えられるという希望を持たせれば目的に向かって力強く進むことができます。私たちは「若い人、がんばって、がんばって」とプレッシャーをかけるのではなく、若い人たちが不安なく核廃絶に向かって活動できるようにサポートする。オール世代で活動する。学生よりも子育て世代の30、40代の関心のなさが一番深刻です。生協の力とネットワークでこの世代に働きかけていただければと思います。
1994年のリオサミット以前環境問題について今ほど取り上げられていませんでした。でも今は企業や国が環境問題に取り組むことはプラスのイメージで人々に受け入れられます。環境問題、人権問題、貧困問題などと同じで、核問題もいずれ当たり前に取り組むことになっていきます。
世界で核兵器廃絶を望む国は約150か国、核兵器保有国と拡大核抑止力(核の傘)に依存する国は約30か国(日本も含む)です。圧倒的多数が核兵器廃絶を望んでいるのです。
中村さんは力強く語り、講演を締めました。 私たちが考え方を変えて行動することで核廃絶が当たりまえの世界になっていく。その世界が見えるような中村さんの講演でした。
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