活動レポート
~3.11を忘れないシンポジウム~「新地町の漁師たち」映画上映&トーク
2020.3.24
2020年2月29日、パルシステム東京は「~3.11を忘れない~『新地町の漁師たち』映画上映&トーク」をパルシステム東京新宿本部で開催しました。(組合員・役職員67人が参加)
黙とうの後、山田 徹監督が東日本大震災後の福島県新地町の漁師たちを追ったドキュメンタリー映画『新地町の漁師たち』を上映。
Story (公式サイトより一部抜粋) 舞台は、3.11後の福島県新地町の漁村。東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故の影響で、再生不可能とまで言われた福島の海。この映画は、津波と原子力災害によって生じた様々な軋轢や葛藤の中で生きる福島県漁業者たちの合意形成を巡る交渉の記録である。 公式サイトはこちら
【予告編】『新地町の漁師たち』 |
「忘れない」ということからも、この映画を作ってよかった
山田 徹監督プロフィール
1983年、東京生まれ、自由学園卒。日本の女性監督のパイオニアである羽田澄子監督に師事する。映画『新地町の漁師たち』(2016)では第3回グリーンイメージ国際環境映像祭グランプリを受賞。現在は福島県浪江町出身の高齢家族に密着した『あいまいな喪失』を制作中。原発事故後の福島を活動拠点にした映像作家
上映前に山田監督から「今、新型コロナウイルス感染症(covid-19)感染拡大防止のため、日本ではマスクなどが不足してしまったり、イベントなどが開催中止になっています。私はこの状況が原発事故の時の混乱した日本を思い出させるな…、と思いながらニュースを見ています。
人は過去のことは忘れてしまいがちですが、何かをきっかけに過去のことを思い出すことがあります。制作した私も時間をおいてこの映画を見ると、映画撮影時のいろいろなできごとを思い出します。「忘れない」ということからもこの映画を作ってよかったと思っています。」とご挨拶をいただきました。
もし処理水を流したら、いったいいつ海はきれいになるのか
映画の中では、東京電力福島第一原発の汚染水対策の1つ、「地下水バイパス計画」(山側から原発建屋内に流入する地下水を事前に汲み上げて、水質検査をした上で海に放水する、汚染水を減らす取り組み)を理解しながらも、最初から海に流すことを前提とした東電の説明に疑問を持ち、孫、曾孫の代まで漁が続けられる海のために声を挙げ反対する小野さんや、立場の違いから受け入れを容認する漁師など、新地町を始めとした福島の漁師たちの合意形成の記録が描かれています。
本日のトークのゲスト、新地町の漁師の小野春雄さんは映画の中でこのように訴えています。
「私たちもいずれ海に流すという話になるだろうということはわかっていた。『最初5年間はタンクに貯められる、大丈夫だ』と言っていたのに、たった2年で『いっぱいになったから海に流す』という話になった。さらに処理水に含まれるトリチウムは除去できないまま、海に流すという。
トリチウムは希釈するので安全だというが、本当に安全なのだろうか。人体に影響があるという科学者もいる。
処理水を流した海で捕れた魚を、消費者は食べたいと思うだろうか。廃炉に40年もかかるのに、そんな物質の混ざった汚染水を、除染できないといわれている海に流したら、いったいいつ海はきれいになるのか。事故から3年経過して、漁も復活できそうだという時に、またゼロから始めないといけないのか。」
新地町の漁師、小野さんと監督のトークより
小野 春雄氏プロフィール
福島県新地町の漁師。
「100歳まで現役で仕事を続け、廃炉を見届ける」ため、トレーニングを続け健康維持を心がけている。
3月27日に2020東京オリンピックの聖火ランナーとして福島を走る予定。68歳
上映後のトークでは、山田監督と映画に登場する漁師の小野春雄さんにご登壇いただきました。
新型コロナウイルス感染拡大のニュースがあふれる中、当日朝まで東京に行くことをご家族に大反対されたという小野さん。それでも来た理由は、メディアには取り上げられない、ご自身を含めた福島の漁師が今、どんな気持ちでいるかということと、新地町の現状を知ってほしかったからだと話し始めました。
30年後、40年後の海を守るためには、誰かが立ち上がらなければいけない
「私たち漁業従事者は海のことを一番知っています。その私たちが、『トリチウム水の海洋放出』に関して人をあてにしていたのではダメだ、誰かが立ち上がらないといけないと思い、私はここに来ました。
福島の状況は映画撮影当時とはだいぶ変わってきていて、試験操業から本格操業になる一歩手前まで来ています。
でも、海に流す処理水に含まれているトリチウムに関しては、映画の中の東京電力の説明会以来、まだ一度も説明に来ていない。トリチウムは30年~40年たたないとその影響がわからないと聞いています。だれもまだわからないのに、なぜ安心だと言い切れるのかを聞きたいのだが、まだその答えは聞けていない。放射能に関しては、正直、話を聞けば聞くほど危険だと思う。」
小野さんのお話の途中で、山田監督が映画には出てこない漁師の置かれている立場についての解説をしました。
「『地下水バイパス』を始めとした汚染水対策の担当主体は当初東電でした。今は国になっています。
汚染水の処理に関して経済産業省の有識者会議では海洋放出が一番合理的であるという結論になっています。様々な人たちが意見を言い合い、合意形成が非常に難しい。その中で海に一番利害関係のある漁業者が「いけにえ」のような形になり、賛成しても、反対しても苦しい立場に置かれているのが現状です。
小野さんのお話は続きます。
「私が一番ダメージを受けたのは、5年くらい前の新地漁協の青壮年部による東京・築地市場の視察報告で、首都圏の人々は『福島の魚はいらない、怖いというイメージ』を多く持っているということを聞いたことでした。
今でさえそういうイメージを持たれているのに、トリチウムを流したらますますイメージが悪くなり、魚が売れなくなってしまう。果たして子どもや孫たちは漁業を続けていけるのだろうかと、とても不安になりました。」
東京に住む人も一緒に反対の声を上げてほしい
「今、福島の若い世代のお父さん、お母さんの中で、自分の子どもたち(小学生、中学生)は漁師にしたくないという人が増えています。「放射能が怖く危険、先が見えない、魚が売れない」…この状況ではここにいるみなさんも同じ思いを持つでしょう。
海は1度汚してしまったら取り返しがつかない。孫の子どもの代の30年、40年先の海を守るために、何としても反対しなければと思っています。
東日本大震災の原発事故は福島だけの問題ではなく、その電気を使っていた東京の人たちにも自分たちの問題としてとらえてほしいと思っています。きょうの私の話をみなさんそれぞれに発信してください。」と小野さんは私たちに課題を投げかけ、お話を締めました。
参加者のアンケートから
今回の上映会&トークの参加者からは、下記のような感想が寄せられました。
「原発事故は『魚を捕ること』を生業としている漁師さんたちにとっての生きがいを奪った。気持ちを想像すると胸が痛くなる。原子力発電の在り方、これからの原子力への取り組み方を考えなければならない」
「トリチウム関連の報道の少ないことに驚く。話を聞いて現状はよく分かった感じがする」
「福島の状況を耳にしてはいても、一人ひとりの漁師さんの思いまでは聞ける機会は今までになく、貴重でした。まだ事故は終わっていないということをもっとみんなが知るべきだと感じました」