活動レポート

【第3回連続平和学習会】 生活者の視点からメディアについて考える~食べものを選ぶようにメディアも選ぼう~

生活協同組合パルシステム東京は2016年9月3日(土)、2016年度連続平和学習会の第3回として、「生活者の視点からメディアについて考える」をパルシステム東京新宿本部で開催しました。組合員・役職員48名が参加し、情報があふれる現代の日本で、私たちが平和な未来を選択していくために、どのようにメディアとつきあって行けば良いのか、そのヒントをうかがいました。

「生活者の視点からメディアについて考える」

「生活者の視点からメディアについて考える」

講師:白石 草(しらいし・はじめ)氏(Our Planet-TV代表理事)

【プロフィール】

 早稲田大学卒業後、テレビ局勤務などを経て、2001年に非営利のインターネット放送局「OurPlanet-TV」を設立。マスメディアでは扱いにくいテーマを中心に番組を制作配信する。一橋大学大学院地球社会研究科客員准教授。

2012年「放送ウーマン賞」「JCJ日本ジャーナリスト会議賞」「やよりジャーナリズム賞奨励賞」、2014年「科学ジャーナリスト大賞」

主著に「メディアをつくる~「小さな声」を伝えるために」「ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち~ウクライナから学ぶ」(ともに岩波ブックレット)がある。

大手テレビ局に務められた後、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)勤務を経て、非営利のインターネット放送局Our Planet-TVを設立された白石氏。“メディアは誰もが自由に参画し、誰もが担い手になれる”との思いをもって取り組まれています。

客員准教授を務める一橋大学の学生から「メディアをどう選べば良いか?」と聞かれることも多いと言う白石氏は、「情報は一方的に提供されるものと思いがちですが、ものを買う時と同じように、メディアも毎回吟味してほしい。日本では、テレビ局が番組を作り放送していますが、ヨーロッパなどではより広く、市民など様々な人が番組に参画できる」といいます。

 

日本のメディアの構造

誰もが参画できるメディアを提唱する白石氏から、まずは日本のメディアの変遷と特異性について、お話しをいただきました。

今では、放送は知る権利や民主主義のために有効に活用されていますが、そもそものスタートは、国のプロパガンダのために開発され、利用されてきたもの。

日本では、戦時中、プロパガンダ放送を積極的に行ったメディアを問題視したGHQ(連合国最高司令官総合司令部)により、一時的に放送を国家から独立するという政策がとられたものの、主権回復後、電波免許を国が管理するという制度がとられ、現在までその流れは続いていると説明する白石氏。

民主主義国家の中では、国が電波免許を交付する国はほとんどなく、アメリカやイギリスをはじめどの国も、独立機関が携わっているといいます。

また、放送局の系列化や、新聞社がテレビに参入する仕組み、それによる報道のコントロールなど、日本独自の構造について、お話しをいただき、日本のメディアが抱える根本的な問題点を学びました。

事例として~原発と核の戦略がどのように作られているか

次に、メディアの問題と関連性が高い原発事故後の報道について、「美味しんぼ」で描かれた鼻血の描写を例に解説がなされました。

テレビや新聞の枠組みから外れた漫画は、政府からの影響を受けにくい性質にあります。しかし、発刊後、政府機関等から多くの抗議が出され、大きな社会問題となりました。

71年前の広島、長崎の原爆による原爆症の問題は、現在も裁判が続いており、鼻血をはじめとした身体症状についても議論の最中であること。それを公に認めないのは、非人道的な核兵器使用を容認し、で同時に原子力という新しいエネルギーを推進するために、原爆による健康影響を極力低く見積もり、核に対するアレルギーを払拭してきた歴史の延長であると語る白石氏。現在福島で起きていることも、これと地続きだといいます。

一方で、原水爆禁止に立ち上がった一主婦の取り組みが全国に広がり、国を動かしていった例を挙げ、声を挙げることの重要性を指摘しました。

コミュニケーションの権利~メディアリテラシー

最後に、世界の事例などを元に、放送の在り方やメディアリテラシーについて、問題提起がなされました。

第二次世界大戦で、日本と同様、敗戦国となったドイツでは全国一律の放送を否定し、放送免許の交付が州ごとに行われていること、市民が番組を作って放送できるオープンチャンネルが設置されていること等を例に挙げ、戦争を深く反省したドイツが、どのように放送制度を整えてのきたかを学びました。

また、日本では十分共有されていませんが、基本的人権のひとつとして「コミュニケーションの権利」という概念があることも紹介していただきました。1980年代以降、先進国の一方的な情報によって、地域の文化やコミュニティが破壊されてきたアフリカの問題がクローズアップされ、その後、各国でメディア教育の充実が図られました。その後、市民によるコミュニティメディアは世界に広がり、今では韓国や台湾などアジアの国でも、多種多様な人が参加できるチャネルがあるそうです。

白石氏は、日本では、多様な情報を受け取ることが困難であり、この分野で非常に遅れをとっている。一方で、ここ数年、ようやく市民がメディアに関心をもちはじめていると感じる、と言います。

冒頭、学生から聞かれた「メディアをどう選べば良いか?」との問いに、白石氏は「まずは全部疑うこと。情報を鵜呑みにせず、何が正解か探究心をもって見ていかなければいけない」と答えていると言い、受け身ではなく、能動的に情報をみていく重要性を訴えました。

 

参加者からの質問

石氏の講演後、参加者から多くの質問をいただきました。

「市民にできることは何か」との問いには、放送局に批評の手紙などを出すこと、真摯に作成された番組をほめることも効果的であると白石氏。

また、森永ヒ素ミルク中毒事件では、主婦による不買運動が解決に導いたことを例に、メディアに踊らされずに消費者自身が判断して行動することの大切さ、そして、ナチスの残酷さを後生に伝えたアンネの日記など、個人の日記の中に真実があるという歴史的事実を元に、自分の思想、考えを曲げず、発言し続けていくことの大切さを訴えました。

「SNSなどで地元の問題や平和問題を発信すると心ない批判も多い。身の守り方は?」との問いには、発信者になると責任がともなうことを指摘した上で、「きれいなものに誹謗中傷を投げつけるのは難しいという人間の潜在意識から、デザインにこだわって発信してみること」「仲間を作り、一つの媒体として発信してみること」というアドバイスをいただきました。

最後に、「戦時中と今、一番違うのは女性が自分の意見を持ち、発信ができること。生活、食べ物、子育て、ケアワーク、仕事…と多彩に関われる女性が、話しをすることを続けていってほしい」と参加者へのメッセージをいただき、学習会を終えました。

講演後、参加者から多くの質問が寄せられました

講演後、参加者から多くの質問が寄せられました

講演後、参加者から多くの質問が寄せられました

学習会終了後、参加者と直接意見を交わす白石氏