活動レポート
「子どもの甲状腺モニター検診」キックオフ学習会
2016.2.11
パルシステム東京は2016年2月11日(木)、「子どもの甲状腺モニター検診」に向けたキックオフ学習会「原発事故から5年 学ぼう、考えよう、放射能とその影響」を新宿本部にて開催しました。小児科医・「未来の福島こども基金」代表の黒部信一氏を講師に、組合員ら99名が放射能のリスクと対策、甲状腺検診について理解を深めました。
放射能被害リスクが高い子どもたち
黒部氏は放射能の影響について、年齢が低いほど発がんなどの健康被害を及ぼす危険性が高くなることを指摘。なかでも、胎児と乳児は細胞分裂が特に盛んなため、放射能の影響を強く受けます。受胎後の胎児の中枢神経系が放射線に対して最も敏感で、小頭症や精神発達異常が引き起こされるリスクが高まると考えられています。
放射能の具体的な被害としては今までおもに「発がん性(白血病、がん)」が挙げられてきましたが、チェルノブイリでの事故後の健康調査から、被ばくした子どもたちが脳神経系、免疫系、内分泌(ホルモン)系、筋骨格系などさまざまな症状を訴えていることがわかっています。しかし、国際的に放射線との因果関係が認められているのは甲状腺がんのみ。甲状腺だけを検診しているのはそのためで、本来は全身への影響を検査すべき、と黒部氏は訴えます。
また、国際基準となっている線量限度は成人で年間1ミリシーベルトですが、現在の日本政府によって定められている許容基準は成人で年間20ミリシーベルト。被ばくに関する十分な知識や技術を有する医師が不足していることや、検査の標準化が行われていないこともあり、ホットスポットといわれる高線量地域が岩手から東京まで点在しているにもかかわらず、福島県以外では甲状腺検診が実施されていないのが実状です。
被ばくのリスクを回避するためにすべきこと
放射線による被ばくには、医療行為(レントゲン、CTなど)や原発などで直接放射線にさらされる「外部被ばく」と、汚染された食品や空気中から体内に取り込まれた放射性物質が放射線を発し続ける「内部被ばく」の2種類があり、検査法や対策も異なります。黒部氏は、外部被ばくを避けるために「高線量地域から離れる」「被ばく時間を短くする」、内部被ばくを避けるために「放射能汚染の少ない、検査された食品を食べる」などの対処法を提言。また、より広範囲な甲状腺検診などの検査の重要性も強調しました。
その一方で「放射能に神経質になり過ぎると、ストレスになって他の病気の原因にもなりかねない」とも、黒部氏は警告しました。「メディアや報道に惑わされず、正しい情報と知識を得て、適切な対応をすることが大切です。するべきことをし、あとは、のびのび子育てをしましょう」と締めくくりました。
パルシステム東京は甲状腺モニター検診を継続的に実施
開会の挨拶に立ったパルシステム東京・野々山理恵子理事長は、2012年6月に超党派の議員立法で可決された「原発事故子ども・被災者支援法」が健康被害の調査を国が支援すべきとしているにもかかわらず、甲状腺検診が福島県のみに留まっていることに遺憾の意を表するとともに、今後もパルシステム東京は組合員からの被ばく被害への不安の声に寄り沿っていく決意が述べられました。
パルシステム東京は2月20日(土)、いわき放射能市民測定室「たらちね」の協力のもと、組合員のお子さんを対象にした「甲状腺モニター検診」を実施。東京都内や近郊において特に小さいお子さんの健康への不安がぬぐいきれないという組合員の声に応え、2016年度以降も甲状腺検診に継続的に取り組む予定です。
講師:黒部 信一氏
1966年、慶應義塾大学医学部卒業。1982年、国立埼玉病院小児科医長。1984年、吹上共立診療所所長。1991年、「チェルノブイリ子ども基金」設立、同顧問。2012年、すずしろ診療所所長。
専門は総合小児科。福島原発事故後、「未来の福島こども基金」を設立、同代表。福島市で「市民放射能検査所」を開所するなど、汚染地の子どもたちの支援活動を行っている。
おもな著書に『原発・放射能 子どもが危ない』(文春新書)、『放射能対策ハンドブック 原発事故と子どもたち』(三一書房)、『放射能と健康 本当に私たちが知りたい50の基礎知識』(東京書籍)など。