活動レポート
有害化学物質削減学習会「香害 そのニオイから身を守るために」
2017.8.3
教室やオフィス、商業施設や集合住宅など、さまざまな空間で漂う「香り」。
ここ数年の「香り付け」ブームの陰で、「香り」に含まれる成分が原因とみられる健康被害を訴える人が急増しています。
パルシステム東京は7月25日(火)、ジャーナリストで元朝日新聞論説委員の岡田幹治氏を講師に招き、「香害 そのニオイから身を守るために」と題して学習会を開催しました。組合員・役職員含め72名が参加し、柔軟剤、消臭除菌スプレーなどに含まれる化学物質とその毒性、健康への影響とその対策について学びました。
突然やってくる体調不良! 化学物質過敏症とは?
2012年以降、各地の消費者センターで急増している「柔軟仕上げ剤に関する相談」。隣人の洗濯物のニオイがきつく、体調を崩して以降、頭痛、吐き気、のどの腫れ、発熱、倦怠感などさまざまな症状に苦しんで、外出もままならなくなったという人も。これは柔軟剤などに使用されている「香り」の成分が原因で化学物質過敏症(CS)やアレルギー疾患を発症させたり、悪化させたりしたと考えられます。
世界で約10万種類が使用され、毎年新しいものが追加される化学物質。一度に多量の化学物質を体内に取り込んだり、少量ずつでも長期間取り込み続けたりして、その人の許容量を超えると体の反応として化学物質過敏症を発症します(建物が原因の場合を「シックハウス症候群」と呼びます)。
誰でも発症する可能性があり、一度発症すると普通の人は感じないほど微量の化学物質にも鋭敏に反応して、全身かつ多器官にわたる症状があらわれ、身の回りからあらゆる化学物質を取り除かなければ、日常生活もままならなくなることもあるという恐ろしい疾患です。また、症状がさまざまなため診断が難しく、長期にわたって適切な治療を受けられずに苦しむ患者もいます。日本で化学物質過敏症の可能性があるのは、国民の7~8%ほどと推定されています。
食べるよりも吸う方が危険? 香りに含まれる化学物質
芳香柔軟剤に含まれる香料のほとんどは人工的な揮発性(*1)の化学物質。4,000を超す成分(物質)があり、複数成分の混合物として使用されますが、個々の成分については企業秘密として公表されません。なかには①アレルゲンになるもの、②ホルモンかく乱作用のあるもの、③神経毒性のあるもの、④発がん性のあるものもあることがわかってきています。
また、消臭除菌スプレーにも消臭力の弱さを補うために香料を使用しているものが多数あります。除菌成分で菌を殺したとしても汚れが付着したままであれば、再び菌が繁殖して臭いの元となるため、毎日のようにスプレーし続けることにもなりかねません。
柔軟剤や消臭スプレーからは、ごく微量でも流涙・咳・息切れなどをもたらす強い毒性を持った「イソシアネート類」が検出されたという発表も(*2)。にもかかわらず、香料の安全性評価は業界の自主規制任せとなっているのが現状です。
*1 大気中で気体になる性質
*2 VOC研究会の自主検査による
「食べものは農薬などを気にする人が多いけれど、体内に取り込まれる化学物質の80%以上は呼吸によるもの(口からは10数%、皮膚からは数%)。食べものや水と一緒に摂ると肝臓などである程度解毒されますが、呼吸で吸入した化学物質は肺から血液に入って全身に回るので、より注意が必要」と岡田さんは警鐘をならします。
くらしの中で香り(化学物質)の害から身を守るために
即効性のある治療法がない化学物質過敏症。その原因となる化学物質を含む香り付け商品が巷に溢れる中で、私たちが身を守るためには、どのすればよいのでしょうか?
化学物質過敏症の患者が実践している対策を参考に、岡田さんは日常生活で化学物質の使用を減らす方法として次のようなくらし方を提案します。
•着香製品は使わない
•合成洗剤を石けんに替える
•衣類や寝具はできるだけ天然素材を使う
•トイレや台所では換気扇を回す
•掃除は丁寧に(水拭きが有効)
このほか、無農薬・有機・自然栽培の米・野菜などの安全な食材を使って、免疫力を高めるバランスのとれた食事をとることや、規則正しい生活や運動で抵抗力をつけることなども、化学物質過敏症の発症を予防する対策として紹介されました。
質疑応答
当日は実際に化学物質過敏症と診断された方や同じ悩みや問題意識を抱える参加者が多く集まり、講演後の質疑応答では活発な意見交換がありました。なかには、学校給食の白衣に着いた洗濯の残り香に困っているが、問題視する人は少数なため、なかなか問題提起しづらい、といった声も。岡田さんは香料の被害がまだそれほど知られていない現状を踏まえ、今後はタバコの受動喫煙防止にならい、まずは皆が知ることから始めて、公共スペースでの香料使用自粛や企業への働きかけにつなげていければ、と締めくくりました。
講師:岡田 幹治氏
ジャーナリスト、元朝日新聞論説委員
著書に『香害 そのニオイから身を守るには』(金曜日)
『ミツバチ大量死は警告する』(集英社新書)
『アメリカ産牛肉から、食の安全を考える』(岩波ブックレット)など
※ 本記事は、学習会(岡田氏講演)の内容を元にパルシステム東京広報室にて再編集しています。
パルシステム東京は、前身生協の創立以来、一貫して合成界面活性剤を扱わず、石けんの利用を推進してきました。
今後も有害化学物質の情報を収集し、広く学習会などを通じてお知らせしていきます。