活動レポート
「できることを考え、やらないのは恥ずかしい!」難民支援に取り組む学生とセッションから見えてくる未来への希望 | オンライン学習会「出口の見えない難民問題の今」詳細レポート(4)
2021.9.2
パルシステム東京は2021年7月23日(金・祝)、「出口の見えない難民問題の今」と題して、難民支援に取り組むNGO3団体を講師に、学生らとのトークセッションも交えたオンライン学習会を開催しました(参加者167名)。当日の講演や質疑応答の様子の一部を4回に分けて詳細をレポートします。
(以下、敬称略)
大学生から登壇者へ4つの質問 「学生のうちにやっていたことは?」ほか
登壇者から大学生へ2つの質問 「活動のきっかけと継続のモチベーションは?」
天沼
さて、先ほど中村さんと菊池さんと打合せをしている際に、せっかくなので学生さんにも聞いてみたいことはありますかと話していたら、色々と出てきました。参加者の皆さんも聞いてみたいと思っているかもしれないので、ここで2つだけ学生のお三方に質問してみたいと思います。
①そもそもどうしてこういった活動を始めたのか、ということと、②今、活動のモチベーションは何ですか?の2点。一言ずつにはなってしまいますが、森岡くんから回答をお願いできますか?
森岡
自分は正直、何不自由ない暮らしをしていました。たまたまニュースで難民の人たちがいることを初めて知り、今まで知らなかったことが恥ずかしいなと思ったのと同時に、何か自分の手で難民を支援したいなと強く思いました。そこからすぐにアクションを起こして、こういった活動を始めました。
人に任せるのではなく、自分が先頭に立って、自分の手で難民を支援したいというモチベーションが自分を奮い立たせていると思います。
天沼
熱いコメントをありがとうございます。続いて山本さん、お願いします。
山本
幼い頃、幼稚園ぐらいのときに「世界では5秒に1人亡くなっている」というCMを見て衝撃を受けました。大きくなるにつれて、それが飢餓や貧困が関わっているということを知り、難民の方も飢餓や貧困に苦しんでいることを知り、私にもできることはないかなと思っていました。受験が終わって、大学生になってできることはないかなと、SNSなどを色々調べてSOARに入らせていただきました。
将来もずっと難民支援に関わる仕事をしていきたいので、できる限りの経験を積んでいきたいなと思っていて、それをモチベーションにして今も頑張っています。
天沼
では、加藤さんもお願いします。
加藤
私は、NHKスペシャルでちょうどシリアのドキュメンタリーが放送されたのを見て、あまりにも自分が知らなかったと衝撃を受けたのがあります。「知ってしまったからには、行動しないなんてない」みたいな、そういう感じで活動を始めました。難民の方々と直接かかわることもあり、直接声を聞いたりだとか。
…あとは、話は変わってしまいますが、入管法改正への反対行動は、「市民の力が政治を変えた」すごいことだったと思っていて、そういった楽しさや喜びがあるから、もっとこれからも続けたいと思えるのかなと思います。
天沼
ありがとうございました。
参加者から登壇者へ2つの質問 「今、必要される支援は?私にできる支援は?」
天沼
会場の皆様からも色々な質問をお寄せいただいていましたが、その中から2つ、お答えいただければと思います。まず、①今一番必要な支援は何ですか?
お二人に考えていただいている間に、私からも一言。
明確に一つは「教育」です。もう一つは「保護」。受け入れ国において、保護を受ける、難民として受け入れられる、ということがないと人間として生きていくことは困難です。コロナ禍においても、あらゆる基本的な人権が守られるように、早く難民として保護をする仕組みというものが働くこと。これは国内外で必要だと感じます。
それでは、菊池さんからお願いします。
菊池
そうですね。まずは難民問題をしっかり知って、理解していただくことが最初の入口かなと思います。そのうえで、教育や医療、さまざまな分野でニーズがあると思うので、ご自身の関心があるところでさらに知って、どういった形での支援ができるのかを考えていただくことが大事かと思います。
天沼
はい。では、中村さん最後、お願いします。
中村
「一番必要な支援」ということは、私たちもよく考えるし、求めていることでもあります。ただ、やっぱり人間存在ってそんなに単純なものではないなとも思っています。教育が必要、医療が必要、水が必要、いろいろなもので生活が成り立っていて、そのどれが欠けても人間として生きていくことが難しくなる。難民を知っていく中に、自分たちと同じように、いろんなものが合わさった存在として人間が生きているんだということ、その人たちの人権に対して、どういったところから自分は共感をするのかといった、そういった感覚が必要ではないかと私は思います。
命を支えるうえで必要なものがイの一番に必要という感覚ももちろんありますが、難民という中長期的な問題に対しては、やはり人間が育っていかなければならず、教育の問題も非常に大きい、人材開発や人間の安全保障、色々なアプローチがある中で、自分の共感するところを知る、自分を知るというのも大事なんじゃないかという気がします。
天沼
ありがとうございます。
もう一つ、高校生の参加者の方からの質問です。②コロナが収束しない中でも、高校生のうちにできる支援は何ですか?
こちらは、私の個人的な意見も含めてお答えしますね。まず、今日ご参加いただいたこと、これは視聴された皆様もそうですが、本当にありがとうございます。皆さんがしっかりと知ること、そしてご家族や友人に広めていただくことを絶対にお願いしたいと思います。
そして、何かに参加すること。小さいことからでもできるアクションは沢山あります。何かのイベントに参加する、キャンペーンに参加する、募金する、そういった一つひとつのアクションを積み重ねていくこと、そしてさらにそれを広げていくことが何よりも大きな力になると思います。
むすびに
天沼
最後に一つ。
今日のセッションは「出口の見えない難民問題の今」と題していますが、出口は必ずあります。長期化したり、色々な所で起きたりして、本当に出口がないなと思いがちですが、一つひとつの問題は根気よく、現場の皆さん、当事者の皆さんが世界中で何とか解決してきているんですね。ですので「出口が見えない」と思わず、今日ここに集まった皆様方は一人ひとりの解決に向けて力を合わせてやっていきましょう!そういうことがこれから何より必要だと思います。今日集まった皆さんはある意味、世界を変えていく仲間です。ぜひ、一つ、自分にできることは何だろうと色々調べたりしながら、力を合わせていきましょう!
名残惜しいですが、本日はありがとうございました。
一同
ありがとうございました。
*本ページの内容は、2021年7月23日開催のパルシステム東京主催「オンライン学習会『出口の見えない難民問題の今』の当日の録音音声を元に、登壇者・参加者のご確認・承諾をいただき、パルシステム東京政策推進課にて一部編集しています。なお、当日のアーカイブ動画の配信はありません。何卒ご了承ください。
天沼
では、ここからは大学生の3人から、質問をお受けしたいと思います。どなたかいらしたら…。
山本
あ、私からでもいいですか?
天沼
はい。山本さん、お願いします。
山本
本日は貴重なお話、ありがとうございました。
私からの質問は①いつから難民支援活動に興味を持ったか、というのと、
②学生のうちにされていたことがあれば教えていただきたいです。お願いします。
中村
私が支援活動に興味を持ったのは、高校卒業して大学に入る前の浪人をしていた頃に、たまたまテレビにアフリカの戦地で傷ついている子どもたちが写されているのを見て、非常に憤りを持った、というのが一番初めに意識したきっかけでした。その様子に非常に心打たれて、自分の進路や学部選びにも影響を受けました。
大学では福祉を学びましたが、日本の福祉がほとんどだったので、海外で活動している所を求めてNGOへ行ったり、サークル活動でフィリピンに行ったり。国内でも水俣病患者がみかん農家をしている所などへ行き、不条理にも色々なものを背負っている人たちと交流を重ねた、というのが私の学生時代でした。あまり支援活動というのはしていませんでしたが、国際協力の前に国際交流のフィールドで人との関わり方や、現場にいる人たちってどういう存在なのか等、たくさんのことを教わったという感覚が強く、今にも続いていると感じます。
やっぱり、大変なところ、とくに中東やパレスチナなどは皆さんの感覚的にも遠いところにあると思いますが、そこには「生活している人たちがいる」という感覚が大事だなぁと今も思っている所です。
天沼
ありがとうございます。菊池さんからも、先ほど講演の中でスタートのきっかけをおっしゃってくださいましたが、大学時代はいかがでしたか?
菊池
私の場合、母が韓国人であったこともあり、小さい時から日本以外の国に関心を持っていました。ただ、田舎に住んでいたので、高校生までは「外国に関わる仕事をやりたいと思ったら、それこそ外務省で働かないとできないのでは?」と思っていました。
大学生になって東京へ来てみたら国際協力をしているNGOがあることを知り、「世の中にこういう団体があるのか!」と衝撃を受けました(笑)そうして、大学生時代は色々なNGOにとにかく関わってみる、ということをやっていましたね。
今回のテーマでもある「難民問題」に関わりたいと強く思ったきっかけですが、じつはシャンティ国際ボランティア会に入職する前に、タイとミャンマーの国境の地域に1カ月ほどインターンとして滞在したことがあり、その時の同僚が難民キャンプの出身の方でした。彼女はミャンマーから難民として出てきて、タイに長くいて、本当に自分自身が何人なのかわからないという話をしてくれました。私自身が高校生の時に感じていたアイデンティティの葛藤と共通していると思い、「彼女が抱えている問題は自分(私)の問題なんだ」とすごく強く感じたことがあり、それ以降、難民問題にしっかり関わっていきたいと思うようになりました。
山本
ありがとうございました。
天沼
ありがとうございます。私はお恥ずかしながら大学時代はほとんど歴史学を学んで、柔道をしていただけで、特にお三方のような活動もしていなかったので、今、頑張っている大学生の皆さんの姿を見て、あるいは菊池さんや中村さんのお話を聞いて、「すごいな」と思っていました。すみません(笑)
他にご質問ありますか?
森岡
私からよろしいでしょうか?
天沼
はい、お願いします。
森岡
③今までの活動の中で最大の挑戦。これを教えていただきたいです!
天沼
これ、結構なかなか鋭い質問かもしれません。菊池さん、いかがでしょうか?
菊池
難しい質問ですね…。私は難民事業にかかわるようになって、大切なことを難民の人たちから教えてもらいました。難民の人と話をする中で「人は生きるために、衣食住はもちろん大切だけれど、それだけでは十分ではなく、自分たちのアイデンティティをしっかり持っていくことが大事だ。アイデンティティを形成・維持するためには言語や文化などが大事で、そういったものを図書館の事業が支えてくれている」とお話ししてくれたことが私の中でかなり心に残っています。
「最大の挑戦」ですが、2019年にタイの難民キャンプからの帰還民の支援をするためにミャンマーのカレン州で事業を立ち上げました。その際にも難民の人たちから強く言われたのは「アイデンティティの問題は非常に重要だから、私たちが帰った先でもぜひ図書館を作ってほしい」ということでした。帰還民の生活となると、まずは「生きるため」の支援が多くなりますが、その中でも彼らのアイデンティティを維持し、文化活動もできるような図書館活動をしっかりやろうと、図書館を建てました。これが「私の最大の挑戦」だったと思います。
天沼
中村さんはいかがですか?
中村
いま、菊池さんのコメントにすごく共感を覚えました。難民の人たちにとってのアイデンティティの大切さはパレスチナ難民の人たちもその通りで。パルシステムさんにも紹介しているパレスチナ刺繍の製品も、長く難民生活を強いられている人たちが「自分たちはいったい何者なのか」といったことを確認しながら作っていることともつながると感じました。
それから「最大の挑戦」ですが、2011年から2014年頃、私が現地にいた間に農業事業を手掛けていたんですね。パレスチナ・ガザ地区であまり水を使わないでできる節水型の農業を、農地に農場を作って、農民の方たちと一緒に勉強しながら進めていました。
じつは一生懸命作った農場は2014年の戦争のときに破壊されてしまうということがあり、非常に落胆しました。まだ再建もできていないという状況ではありますが、農家の方たちが「事業の中で得てきたもの、どうやったら水が減らせるのか、といった知識は残っているぞ」とおっしゃってくれました。人材の中に残っていくものの可能性みたいなものを逆に教えてもらったと思います。
こういう支援活動をやっていると情勢がどんどん変わって、積み上げてきたものがいっきに崩されるということも往々にしてあります。でも、そこから先へ進めないというのではなく、何か一つでも残ったということがあれば救いだと思います。これからもそういうものを大事にしていきたいです。
森岡
ありがとうございます。
天沼
私にとっては、まさに「今」がチャレンジです。若い世代も含め、いかに関心がない人に関心を持っていただくか……これが常に最大のチャレンジです。それを達成することができたら、ファンドレイザーとして、国連に関わる者として、何か一つ大きな壁を越えてられるのでは、世界が変わるのでは、と思っています。
さて、加藤さんにもお待ちいただきました。登壇者の方への質問をお願いします。
加藤
はい。寄付を集めたりする際に、難民の方々の現実・現状を伝えることはとても大事だと思います。ただ一方で、悲惨な現実を伝えることで④「難民はかわいそう」といったイメージだけが伝わってしまわないように工夫されている点や気を付けている点があれば教えていただきたいと思います。
天沼
はい、これは中村さんからお願いできますか?
中村
とっても大事な視点ですよね。支援を受ける人たちがどうして支援を受けなければならないのか、その 人たちがどういう存在なのか、ということは、「かわいそう」の一言で片付く問題ではないし、その人たちがどんな人間性を持っているかということは着目していくべきだなと思います。あとはその人たちのヒストリーですね。どういう風にして住んでいて、くらしを立てているのか、そこは大事にしていて、現場でモニタリングしたり、聞き取りをしたりする際にはなるべく多角的にお話を聞けるようにしていきたいなと思っています。子どもたちにしても、それぞれ個々のものが伝わるようにしたいなというのが一つ。
パレスチナの人たちははっきりした色合いのファッションや重厚な家具とかが好きですし、身だしなみに気を付けます。さっきのビデオの女の子もけっこうかわいい服を着ていて、日本の人からすると「そんなに困ってないのかな」と誤解を受けることもあります。そうではなく、こういう所では身なりをきちんとして人前に立つんだという意識を持っている人たちであるという誤解の生じない過不足のない情報発信をしなければと思います。
直接お話しできる人とそうでない人もいる。いろいろな形で情報発信をする中で、情報が独り歩きした時にその先でどんな受け取られ方をするのかなという想像力を働かせることも今の時代は大事になってきていると感じます。
天沼
菊池さんもいかがでしょうか?
菊池
今、中村さんがおっしゃったことはまさに私の団体が実践していることでもあります。「難民」というと苦難の中にいる人たちというイメージが先行しがちですが、本当に一人一人ストーリーがあって、声があります。難民キャンプの中にあっても喜びや日常のささいなことでも苦しいだけではないことがたくさんあるので、そういったことを発信していくことも大事だなと思います。
それぞれがしっかり色々考えて「こうしていきたい」という思いもあって、そういったことも理解してもらえるように、たとえば映像で声を届けるなど、もしっかりやっていきたいですね。
天沼
私からは、たとえばミュージック、スポーツ、アート、シネマなど、皆さんが関心を持ってもらえそうな様々な事柄と紐づけて伝えると、理解がより進むかなと考えています。
国連UNHCR協会でも「WILL2LIVE」というブランドを立ち上げているのでぜひ検索してもらえると嬉しいです。そういった何かに紐づけて親しみを沸かせるというのも大事だと思います。
加藤
ありがとうございます。